成長の樹 6 ~人類進化の方向性(より良く生きるために)~


より良き保育・子育て・教育を見出すためには、その教育法がどの様な人間を造りだすかを見極めることが必要です。同時に、人類の進化の方向性を探り、教育法と人類の進化が合致しているか確認しなくてはなりません。人類進化の方向性と教育法が合致していれば、その教育法は自然の摂理に沿ったものと言えましょう。
人類の進化は「前頭連合野」の発達によるもので、他の類人と比べ「前頭連合野」の大きさが5倍に発達しました。
進化論的な見方で人類の進化を見てきましょう。

人類はよりよく生きるために、二つの方向性の進化をしました。
① 計画能力、問題解決能力の向上
② 社会の一員としての共恵作戦の採用その過程で言語を獲得し、未来に向けて努力することが出来るようになりました。
二つの方向性といっても、双方とも前頭葉にある前頭連合野の働きです。サルや類人猿からと人の進化の違いは、この前頭連合野の発達の違いです。
1. おおよそ 700 万年~500 万年前にアフリカ大陸で地殻変動が起きて大陸が隆起して、雨雲が遮られ、乾燥地帯であるサバンナが、出現しました。
2. 内気なゴリラや他の類人猿は森にとどまりましたが、進取の気性に富んだ人類は、サバンナに進出しました。
3. サバンナでは採収する食糧も無く、身を隠す術もありませんから、二つの能力を発達させなくてはなりませんでした。
① 狩猟の必要性:計画能力、問題解決能力の発達 →前頭連合野のワーキングメモリーが受け持つ
② 協力の必要性:狩りを効果的に行うためには、皆が協力しなくてはなりません。そこで共恵作戦を取らなくてはなりません。お互いに共感する心と社会の一員として生きるための行動規範が必要です。これらの能力を受け持ったのが、前帯状回皮質(共感)と前頭眼窩皮質(行動規範)です。
③ ワーキングメモリー(計画能力)も前帯状回皮質(共感能力・心の理論)も前頭眼窩皮質(行動規範)もともに前頭連合野の中にある機能です。ここで期待される人間象は、「冷酷な切れ者」ではなく、相手の心を考え、取るべき行動規範を護りながら問題解決していく人間です。この三者の調和がとれた時に、報酬系の脳内ホルモンが発せられ、ヒトは爽快な気分になるのです。

以下④から⑨は暫く「澤口俊之著 『学力』と社会力を伸ばす脳教育 講談社新書」の内容を一部抜粋して記述します。
④ サル他の類人猿と人類の進化の差は前頭連合野の発達の差です。上記の能力は前頭連合野の機能です。「ヒトとチンパンジー類の系統が分かれたのはおおよそ 700 万年前だが、別れた当時のヒトの脳はチンパンジー類と大差なかった。ところが…… ヒトの前頭連合野は 5 倍になった。」人類の進化の方向性は、相手の気持ちや社会の規範を考えながら、柔軟に問題解決をしていく能力を発達させることなのです。このような能力を IQ とは別に HQ と言う指標で表し、さらに HQ を簡略化した gF(一般知能)で表す。
⑤ 知的作業にはその作業に特異的な個別的知能(言語性 IQ とか空間性 IQ)と全ての作業に共通する一般知能(gF)があります。2000 年になって一般知能(gF)が前頭連合野で、特にその外則部が gF の脳内中枢であることが分かった
⑥ 従来 IQ と言われているのはこの個別的な IQ であって、IQ は前頭連合野が高度の知的作業を行うときにその作業結果を参照して問題解決をするが、IQが高くても一般知能(gF)が低いと社会生活が著しく困難になります。アメリカの大規模な調査で、gF が低いほど社会的なリスクを負う確率が高くなることが、1998 年にはっきりと示されたのです。
例えば、仕事が続かないとか、離婚とか、学校中退などです。
⑦ gF とは前頭連合野の機能であるワーキングメモリ(問題解決能力)や前帯状回皮質(心の理論・共感)と前頭眼窩皮質(行動規範)の共同作用による知能であり、「社会力」でもあります。「実社会での成功者とみなせる人々を 600 人ほど調べたところ一人の例外も無く gF は 110 以上だった。成功者は社会的地位も高くて収入が多く、家庭も円満」 とのことです。
⑧ HQ(gF)が発達不全だったり障害されたりしていると、個別的 IQ や認識、記憶、あるいは感情事態等はほとんど変化しないが、やはり、社会生活がとても困難にな
る。HQ障害をかかえているような場合、多くは前頭連合野の発達不全が見られる。
HQ が良く発達

  • 目的を持ち、未来志向的で計画的。
  • 「頭」が良く、問題解決能力が高い。
  • 個性的で、独創的。
  • 自律型、自立型
  • 理性的で、協調的、利他主義。
  • 優しく思いやりがある。
  • 人間性豊かで、社会的に成功。

HQ が発達不全

  • 無計画で刹那的、「引きこもり」にも。
  • 勉強はできても、「頭」が悪い。
  • 依存的、他律的
  • 人まね、指示待ち。
  • 衝動的で、自分勝手、利己主義。
  • 他人の心や「痛み」が良くわからない。
  • 人間性が希薄で、社会的に失敗。子どもの頃の ADHD、LD、CD。
  • 総合失調症、各種人格障害。
  • うつ病、各種不安神経症

ここまでを整理します。
1. 人類は狩猟(問題解決能力)と共恵性(社会性)を大きく発達させて進化してきた。それは主として前頭連合野の機能であった。その結果、ヒトの前頭連合野はチンパンジーの 5 倍に成長した。
2. 前頭連合野の総合能力を「人間性知能」、略して「HQ」と呼ぶ。
3. HQ が高いヒトは上記に赤で示しているヒト。一般知能(gF)と言う因子で調べると、高いヒトほど、社会的に成功。一般知能(gF)は、従来の個別 IQ とは異なり、HQ とほぼ同義であり、前頭連合野の機能である。
4. HQ が低いヒトは上記に青で示されている。社会生活が困難で、個別の IQ の高さとは別問題である。知能指数は高くても、社会生活が困難なヒトは大勢いる。
5. 最近の広範な「社会生活に不適応な若者の急増現象」は、「子育て環境」がどこかで変質を起こしたからです。特に日本においては、「引きこもり」という社会的不適応の現象が現れています。
6. 何故その様な若者の社会的不適応が生じたのでしょうか。連綿と続く人類の進化が変形・変質しようとしています。ヒトが生まれたときに当然にしてあった、子どもを育む豊かな環境が失われているのです。ヒトは、その環境と関わってヒトとして、成長するのです。EEE とはヒトが成育していく上で、当然にして与えられている豊かな環境の事で、自然との関係、人間関係、日常生活との関係、知的世界との関係等です。今、保護者が留意しなければいけないのは、このような環境は、現状では受け身で待っていても子どもに与えることができないということです。子育てで、どの様に工夫、努力して、劣悪な子育て環境をリカバーするかということが肝要です。モンテッソーリ界の論客である、相良敦子教授が、モンテッソーリ教育を受けた子ども達の姿を丁寧に分析し、「モンテッソーリ教育を受けた子ども達は、脳科学者の主張する前頭連合野が育っている子どものこと」だと理解し、「モンテッソリアンが幼児に行っていた保育、幼児の経験と脳の育成を通し、子どもたちは前頭連合野をバランスよく発達させていた」ことに気がつきました。著書の中で述べられている、「モンテッソーリ教育を受けた子どもの美質」が上記⑨に赤字で述べられている HQ が良く発達した特徴に驚くほど合致しているのです。(相良敦子著 「モンテッソーリ教育を受けた子どもたち(幼児の経験と脳)」河出書房)
上記のことから子育て・教育は前頭連合野の働きを活発にすることです。
暗記中心の詰込み教育や偏差値教育はその様な教育ではありません。
戦前より日本のエリートの欠点は、この前頭連合野の働きが弱かったことです。
アメリカの大学院での教育は、「問題解決能力」特に「未来を予測し現在の行動を決定する能力」のトレーニングに集中しています。
日本で、「前頭連合野」発達型人材の代表は、福澤諭吉です。福澤諭吉自身も「前頭連合野」発達型に人材育成を目指していました。民である個人個人が「前頭連合野」発達型の人間であることが社会に活気をもたらすと考えたのです。

2020年8月14日
GLE(Global Leader Education)
主宰者 安藤 徳彰

 
 


About 安藤徳彰

(あんどう のりあき) 慶應義塾大学卒業後、ペンシルバニア大学大学院(ウォートンスクール)にてMBA取得。 ICE幼児教室、ICE私立専門塾などを創業。2014年6月に教育部門の運営を栄光グループにバトンタッチし、株式会社栄光の教育顧問に就任。 2015年10月に株式会社栄光顧問退任