子どもの発達とモンテッソーリ教育 ~言語取得と敏感期~


人間は言葉を話します。「吸収する力」によって環境から学び、徐々に獲得していきます。子どもはどのような言語でも習得できる能力を持って生まれきます。子どもの環境の中に複数の言語があれば、そのいずれも幼児期は容易に吸収し獲得することができます。
概ね0~3歳の子どもは言語の敏感期であり、言葉を話したい、知りたい思いでよく聞き、よく話す口元を見ることを毎日繰り返しています。子どもの環境にある母語(お腹の中から聞いていた一番好きな音=お母様が話す言葉)と環境にある基本的な言葉である母国語を吸収していきます。
五感の優れたこの時期の子どもの耳は本当に優れているということを目の当たりにした経験があります。ある日、ご両親日本人、アメリカで生まれ1歳6か月からモンテッソーリスクールに通われていた男の子が満3歳になったと同時に初めて日本で転園してきました。日本語は全く話せません。お母様は「私たちは家では日本語なのに、この子は家でも英語です。同じく中国人のお子様もご自宅で英語だったそうでとても不思議です。日本語は話しませんが、多少わかっていると思います」と仰っていました。
子どもは、言葉を話すには内発的言語(意味はわかるが発しない言葉)を乳児期に獲得し、ミルクを飲み、離乳食から咀嚼し、舌や喉の完成も手伝い発音に繋がり、外発的言語(発音し発する使える言葉)を増やします。言葉の敏感期にモンテッソーリスクールに毎日通い、言葉のシャワーを浴びながら、コミュニケーション能力と言語を獲得していったのでしょう。
彼は当初英語で話し、クラスのお友達の日本語のシャワーに初日は不思議そうに、二日目以降は目を見てよく聞き、1か月後には「おはようございます」「かして」「ありがとう」「いただきます」「これなあに」「さようなら」。実にスポンジが水を吸い込むとはこのことでしょう。お友達と先生という環境の中で、彼は楽しみながら見事に吸収しました。
私は学生時代、イギリスで幼児を観察しました。イギリスでは日本でモンテッソーリ幼稚園を探すのが困難なのとは逆で、モンテッソーリ幼稚園が殆どかもしれません。その時の事は本当に素晴らしい感動として残っています。ある日、忘れもしないかわいい女の子ロザンナちゃんが髪を切ってきました。そのあまりのキュートさに私は意識なく「わあ、髪切ったの?」と日本語で言ってしまったのです。彼女の美しい瞳がフリーズして私も我に返りました。小さな子どもが、一瞬の日本語を聞き逃すのではなく、サウンドの面白さに瞳を輝かせていました。
未就園児、満3歳の成長には、生まれながらの持つ能力を容易に生かせるこの時期の環境がとても大切です。この時期に知っているか、体験しているかが大きいのです。子どもにとって整えられた環境、居心地のいい環境で育つということはどういうことか。
子どもの脳の発達は遺伝的な要因に決められ方向付けられている面は確かにありますが、同時に子どもがどのような環境の下で育ち、どのように環境にかかわったにかによっても影響を受けます。
(参考)

心理学者マーク・ローゼンツヴァイクは、ラットを使って生後の環境が、脳の発達によってどのような影響を及ぼすかについて検討しています。この実験では、生まれて間もないラットが、3つの異なる環境条件の下で一定期間(2~3ヵ月)育てられました。①3匹のラット普通の大きさのケージに入れられている標準環境条件②1匹のラットが、小さいゲージ入れられている刺激の乏しい環境条件③10匹のラットが大きいゲージに入れられており、中にはブランコ、ハシゴ、木片などの遊び道具もある、刺激の豊かな環境条件。どのラットにも食べ物と水分は十分が普通のゲージに入れられている標準環境条件の下で脳重量が比較されました。その結果、刺激の豊かな環境条件で育ったラットの大脳皮質が、刺激の乏しい環境で育ったラットの大脳皮質よりも重いことがわかりました。豊かな環境において、目で見て、身体で感じ取った経験が、直接、脳の視覚野と体性感覚野を刺激することで脳が活性化して、その領域を発達させたことを意味しています。

環境とは、物的なものはもちろんですが、人的環境もとても大切です。吸収する力のある大切な幼児期にかかわるモデルである大人の存在です。語彙(言葉)を増やすにも、その表情やトーン、全てを吸収します。

2020年7月6日
GLE モンテッソーリ教育・幼稚園受験 担当Y.A.


参考文献

  • 世界一の子ども教育モンテッソーリ 永江誠司 著
  • 「学力」と「社会力」を伸ばす脳教育 澤口俊之 著

GLE Global Leader Education