中学受験「勉強しているのに成績が上がらない」~その勉強法、間違っています~ 理科・社会篇


中学受験「勉強しているのに成績が上がらない」~その勉強法、間違っています~ シリーズ一覧
私は20年以上学習塾で指導していますが、個別で指導する場合、指導依頼の7割が算数で、2割が国語です。算数・国語の2科目で入試を行う学校も少なからずあるため、このような割合になるのかもしれません。しかし、4科目が必修の学校を受験する予定にも関わらず、理科と社会を受講しない、という方も多くいらっしゃいます。保護者の方に理由を伺うと、「暗記科目だから、家で自分でやらせます」とおっしゃいます。その言葉通り、テストで高得点をとる子もいます。「家庭できちんと勉強できているな」と感心します。「勉強は自分でするもの」という意識は、受験に限らずとても大切ですから、家庭で勉強してテストで高得点をとれることが理想です。
しかし、残念なことに、このような子どもはほとんどいません。目標を見据えて自発的に勉強に取り組む、ということが小学生にはまだ難しい上に、家庭でも勉強の管理をしきれないからです。塾で受講していれば宿題も出ますし、毎週の復習テストや週例テストなどで、勉強した内容の定着の確認ができます。(授業をやりっぱなしで、定着をチェックするためのテストをしていない塾もありますが、特に理科と社会に関してはお勧めできません。)テストがあることは、子どもが学習に取り組む動機になります。しかし、「2ヶ月後の模擬試験までにこのテキストを半分やろう」という長期計画は、先延ばしの理由にしかなりません。「明日やろう」「週末にやろう」「来週まとめてやろう」…となり、模擬試験の直前まで先延ばしにした揚げ句、「1週間でこんなにたくさんは覚えられない」となるのです。これを保護者の方に指摘しても、「理科と社会はそのうち…とりあえず算数を」とおっしゃるのです。いつまで棚上げするのでしょう。
中学入試、というと、算数の難しさがよくクローズアップされます。確かに難しく、短期間で身につくようなものではありません。しかし、難しいのは算数だけではありません。入試問題をご覧になってみてください。社会は一般に中学校で学ぶ地理や歴史の数倍の知識が必要ですし、理科は中学校でも普通は習わない物理の問題が当たり前に出題されます。小学校のテストでいつも100点をとっていることが何のアドバンテージにもならないレベルなのは、算数と同じなのです。
ただ、算数と違うのは、理科や社会は点数を取るのに、センスやひらめきは必要ないということです。時間をかけ、正しく努力したらしただけ確実に成績が上がります。算数は、生まれもったセンスがある子どもが有利です。センスのない子どもが努力でセンスある子どもに追いつき追い越すことは、至難の業です。しかし、理科と社会はその意味では平等です。ですから、とりあえず後回しになどせず、早くから時間と労力をかけるべきです。もし志望校の入試で、算数と理科や社会が同じ配点なら、苦手な算数をどうにかするよりも、理科と社会で算数の分まで得点を稼ぐ、という方が確実で現実的だとも言えます。
理科と社会の勉強を先延ばしにしていませんか。正しく学習していますか。今回は「勉強しているのに成績が上がらない」の最終回で「理科・社会篇」です。

(1)子どもが喜んで学習に取り組める漫画や映像教材を使う

家庭で理科や社会を勉強するとき、どのような教材を使うでしょうか。いわゆる参考書や問題集は何か準備するでしょう。特に塾で理科・社会を受講していない子どもを見ると、他に映像や漫画を利用しているようです。Eテレの番組やどこかの塾の講師が配信している映像、歴史の漫画などです。これらは決して無益ではありません。ただし、子どもが4年生以下なら、の話です。
家庭でいきなり参考書や問題集を出して、「やりなさい」「覚えなさい」と言っても、子どもが主体的に取り組むことはまずないでしょう。参考書をただ眺めたり、問題集を始めたのは良いけれどほとんどが×で、仕方なく解答を見ながら正答を写すだけだったり、となるのが関の山です。暗記科目ですから、知識をインプットしないことには始まらないのです。
そこで、子どもが喜んで取り組む映像や漫画を利用する、ということになります。映像は最近の子どもにはお馴染みのYouTubeで配信されていたりしますし、人気のキャラクターが進行役として出てくる漫画なら、楽しく勉強できる、というわけです。
4年生以下なら、と書きましたが、5年生以上なら、映像や漫画はゲームをやったり読書をしたり、といった余暇の1つとして考えるべきです。なぜなら、前述した通り、暗記科目は暗記しないことには始まらないからです。漫画や映像に限らないことですが、1回見たり聞いたりしただけで、年代や人名、その関係性などの複数の事柄を正確に覚えることができるものではありません。ですから、映像を見た後で「はい、問題を解いてごらん」と言ったところで、満足できる結果が出るはずがなく、ましてや入試まで記憶が残っていることはないのです。これでは受験勉強をしている、とは言えないわけです。
子どもが楽しそうに主体的に取り組んでいる姿を見るのは、親としてはうれしいものですし、それが苦しいはずの受験勉強であればなおさらです。ただ、受験勉強は入学試験を突破するための勉強です。楽しいけれど成績アップにつながらない学習では意味がないのです。

(2)暗記科目はまとめノートを作る

「理科や社会の成績が上がらない」と相談にいらっしゃる保護者の方に、今はどのような勉強をしているのかをお尋ねすると、「まとめノートは作らせています」とおっしゃることが多くあります。これは、お子様が塾に通っている、通っていないに関わらず、多いお答えです。自発的にしている、というよりも保護者の方に勧められて始める子どもがほとんどのようです。ただ、塾の講師がまとめノートの作成を勧めることはまずありません。なぜ勧めないのかと言えば、成績アップの役にはほとんど立たないからです。
ノートにまとめる、という作業は、お母様や女の子に好まれるようです。色とりどりのペンを使い、とてもきれいにまとめます。完成すると見栄えが良い上に、じっくりと時間をかけて取り組むため、達成感があります。しかし、実は、この達成感が曲者なのです。
なぜ達成感を得ることが曲者なのでしょう。それは、達成感を得ることは、言い換えれば「勉強したつもりになること」だからです。長時間机に向かい、何かを読んだり書いたりしていると、学習以外のことをしていても、「勉強したな
という気になるものです。入学試験を突破するためにかけている時間ですから、成績アップにつながる勉強以外のことをして勉強したつもりになってしまうことほど怖いことはありません。
この「勉強したつもりになる」
状況を防ぐために、私が、6 年生、特に女の子にしないように指導していることがあります。それは「お絵描き」と「友達への手紙書き」「交換日記」です。最近では交換日記をしている小学生はほとんどいませんが、好きな漫画のキャラクターを描いたり、友達に手紙を書いたりしている女の子は多いものです。全くしない、という子どもの方が少ないくらいです。お絵描きをしていると、1時間や2時間はあっと言う間に過ぎてしまいます。その後で塾の宿題をしたりすると、自分の感覚としてはお絵描きの時間も「勉強を頑張った時間」になってしまうのです。もしかしたら、保護者の方も「長い時間机に向かって頑張っているな」と感じているかもしれません。まとめノート作りもこれと同じです。時間をかけてノートに書き込んでいると、実際の成果以上の達成感が生まれます。「こんなにきれいにできた。頑張って勉強した」と感じてしまいます。繰り返しになりますが、暗記科目は覚えないことには始まらないのですから、ノートを作っておしまいにしている限り、成績アップは望めません。
「本人のやる気にもつながるし、それを使って暗記もしているのだから、まとめノート作りをしても良いのではないか」と思われるかもしれません。10分程度でまとめ終わるのであれば良いでしょう。それ以上かかるのであれば、時間の無駄です。その時間があれば、算数の問題が1問、2問解けます。明日の勉強に備えて早く休むのも良いでしょう。
しかし、達成感を得ることなく努力を続けることはできません。では、何をもって達成感とすれば良いのでしょう。理想は「成績アップ」です。模擬試験でも、小テストでも構いません。努力した結果が目に見え、それを認めてもらうことは、大きな達成感となります。理科や社会は正しく学習したら、すぐに成果が出る科目です。お子さんが以前より少しでも良い結果を持ち帰ってきたら、是非褒めてあげてください。もし、努力したわりには成績が振るわなかったとしても、努力を誉めてあげてください。そして、一緒に悔しがって、次のテストの具体的な対策をすぐに練ってください。間違っても、目先の達成感に飛びつかないことが何より重要なのです。

(3)暗記するためにはとにかく書きまくる

暗記科目は覚えない事には始まらない、と繰り返し書いてきました。では、どのように覚えたら良いのでしょう。
私自身の経験を含めて考えると、覚え方には大きく分けて2つのパターンがあるようです。「書きまくる」と「見て覚える」です。そして、これも私の経験上明らかなのですが、高得点をとる子は「見て覚える」方法をとっています。反対に、「書きまくる」方法で勉強していて、暗記科目が得意な人を見たことがありません。
このように書くと、「見て覚える子はもともと頭が良いから見ただけで覚えられるのであって、書かないと覚えられない子もいるのではないか」と思われるかもしれません。それは違います。見ただけでは覚えられない、という人は、「見て覚える」ための正しい方法を知らないだけです。
「見て覚える」と言うと、テキストの解説ページを開いて、「眺める」ことを想像するかもしれません。これでは確かに覚えることはできません。暗記をするためには、それ用のテキストを用いるか、暗記のための準備をするか、のどちらかをする必要があります。暗記用のテキストというのは、正解が赤字で書いてあり、赤シートを被せるとそれが見えなくなる、という仕様の物です。赤シートをつけて売っているものも多くあります。もし、塾で使用しているテキストを使うのであれば、覚えるべき箇所にチェックペンで線を引く(隠す)という準備が必要になります。チェックペンを使った準備にはある程度のコツがあり、やたらに線を引くのでは意味がありません。その上、線を引くにはそれなりに時間がかかります。ですから、模擬試験や塾の小テストで7割以上とれていないのであれば、暗記用のテキストを用いる方が良いでしょう。
ここまでの準備をして、いよいよ「見て覚える」段階に入ります。赤シートで正解を隠し、頭の中で答えを思い浮かべたら、赤シートをずらして答えを確認します。もし間違っていたら、問題番号やその横に印をつけます。○でも×でも構いません。1度で正解していれば何も印をつけません。そして次の問題に進みます。この要領で先に進み、10問目くらいまで進んだら、印をつけた問題に戻ります。1度目に間違えた問題です。数分前に覚えたものですから、かなりの確率で正解するでしょう。間違えたものが多ければ、2度目でも間違えるかもしれません。2度目でも間違えたら、もう1つ印を増やします。この要領で、全ての問題が答えられるようになるまで繰り返します。
頭の中で答えを思い浮かべる、と前述しましたが、実際は、声に出して答えを言ってみることをお勧めします。声に出すことで、目の他に耳からの情報として暗記すべき語が入ってきますし、口を動かすので脳が活性化されます。「書きまくる」方法で暗記をする子は口を揃えて「見ているだけだとぼんやりしてきて、頭になんかはいらない」と言います。しかし、口に出す方法ならぼんやりする心配はありません。もっと言うなら、柔軟体操などの軽い運動をしながら声に出して暗記に取り組むと、ぼんやりも防げますし、体もほぐせて一石二鳥です。
ぼんやりする、という点で言えば、「書きまくる」方法の方に大きなデメリットがあります。「書きまくる」方法では、下手をすれば10回も20回も同じ語句を続けて書きます。何度も書いているうちに「どんな問題に対する答えを覚えようとしているのか
を忘れていることが多くあります。「維管束、維管束…」と覚えたところで、どのように聞かれたら維管束と答えればよいのかが分からなければ、この暗記は無意味です。また、手ばかりを動かして機械的に書いているうちに、書くことがただの作業になり、頭では全く別のことを考えていたりもします。これこそ、ぼんやりです。
暗記では2段階に分けて勉強の仕方を考えます。最初が、「見て覚える」方法で勉強し、問題に対して口頭で答えられるようになるまでの段階です。これができるようになったら、次が漢字で書けるようにする段階です。中学入試では、答えは漢字で正しく書けることが求められるのが一般的ですから、答えはわかっているけれども漢字では書けない、というのでは困ります。語句の漢字を覚えるときも、基本的には「見て覚える」方法を使います。例えば、「源頼朝」が漢字で書けなければ、答えを確認するときに「『頼る』、に『朝(あさ)』か」と見て覚えておくのです。小学校で習わないような人名漢字なら、何度か書いてみるのも良いでしょう。しつこいようですが、連続して10回も書くのは意味がありません。書きまくれば漢字も同時に覚えられるから効率的だ、と思われていた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これまで述べてきた理由から、見て覚えることが正しい暗記の方法だと言えるのです。
これまで3回に渡って「勉強しているのに成績が上がらない」をお送りしてきました。全ての科目に共通して私がお伝えしたいことは、机に向かってつらい思いをすることだけが成績を伸ばす方法ではない、ということです。成績が上がらないことをしているのに「勉強したつもりになる」ことが怖い、と書きましたが、反対に、「勉強した感じがしない」のに成績が上がっていることが、理想だと私は考えています。「勉強した感じがしない」ということはストレスを感じていない証拠ですし、まだ勉強する余力がある、ということです。
受験勉強は長丁場です。頑張りも長く続かなくては意味がありませんから、なるべく負担が少ない方法をとる必要があります。子どもがリビングで勉強することは一般的になりましたが、私はリビングでテーブルに向かう必要もないと思っています。手が自由に動く体勢であれば、ソファーに寝そべって算数の問題を解いても良いでしょう。暗記科目であれば、部屋中をうろうろしながら見て覚えても良いのです。少しの工夫と正しい勉強法で、子どもの成績は必ず上がります。受験がお子様と保護者の方にとって、笑顔の多い経験となりますように、心から応援致します。

2020年10月1日 GLE(Global Leader Education)
中学受験・高校受験
担当 加藤 恵


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