中学受験 過去問にいつ、どのくらい取り組むか


9月以降、6年生は通塾日数が増えたり授業時間が長くなったりと、夏休み以前にも増して忙しい日々を送っていることと思います。また、学校では最高学年として、委員会やクラブ活動、学校行事での役割も大きなものとなってきます。
それに加えて、この時期には過去問にも取り組み始めなくてはなりません。過去問は一般に「第1志望校は5年分、第2志望校は3年分、滑り止め校も1年分」に取り組むのが良いなどと言われます。受験科目が4科目、1科目40分のテスト時間とすると、これだけの量をこなすには、解くだけでも単純計算で24時間が必要となります。
忙しい毎日を送る受験生のお子様にとっても、それを支える保護者の方々にとっても、この時間は肉体的にも精神的にも大きな負担となります。せっかく取り組む過去問演習を、無駄にせず、合格につなげるためにはどのようにしたら良いのでしょうか。
 

(1) 過去問に取り組む意義-「知る」「慣れる」

合格可能性を判断する模擬試験も本格化するこの時期には、その結果に一喜一憂するものです。「模擬試験の結果が悪くても、志望校の過去問で合格点を上回りさえすれば合格に近いと判断して良いのではないか」。そのような気持ちで過去問に取り組む受験生、保護者の方々は少なくありません。
ただ、残念なことに、過去問演習で合格最低点を上回り、モチベーションが上がった、安心して学習に取り組めるようになった、という話をほとんど聞いたことがありません。なぜなら、本番の入試が行われるのは4ヶ月程先だからです。言い換えれば、あと4ヶ月間、学習を続けなければ合格点が取れないのは当然だということです。
ほとんどの進学塾では、9月、10月ともなれば、小学校での学習範囲が全て終了しています。受験に必要なことは一通り習っているから、この時期に過去問演習をしましょう、ということになっているのです。
9月、10月に過去問演習をする意義は、合格点を取ることにあるのではありません。実際に向き合うことになる志望校の入試問題の形式・傾向を知っておくことにあるのです。「1科目40分」と前述しましたが、それはほんの1例です。実際の試験時間は学校によってまちまちですし、理科と社会の時間は区切らずにまとめて30分、というような学校もあります。近年の中学受験では記述問題が主流で、考え方や途中式も採点の大きな要素になる、などと言われます。しかし、実際に入試問題を見ると、最終的な答えだけしか解答用紙に書かせない学校も多いですし、選択式の問題ばかりを出す学校もあります。選択式の問題の選択肢は4つであるのが主流ですが、5つ以上の選択肢を作る学校もあります。このように様々な問題形式や問題傾向がある現状では、過去問演習に取り組むことによって、自分の志望校の形式・傾向を知っておくことはとても重要なことなのです。
知っておくだけで良いのなら、複数年分に取り組む必要はないのではないか、と思われるかもしれません。複数年分に取り組むことの意義は、「慣れ」です。
慣れるためには、主に解答用紙の大きさを、本番に近いものにしておくことが重要です。書店で売られている過去問集も良いのですが、もし志望校で過去問を販売・配布しているようなら、是非手に入れて、「本物」を使ってください。わかるなら入試と同じ科目順で、制限時間を計って取り組んでください。
中学受験では、受験生は11歳か12歳の子どもです。しかも、入試がどれほど重要な意味を持つのか、ということは十分すぎるほど理解できている年齢です。彼らがどれほどの緊張とプレッシャーの中で入試本番に臨むことになるのか、保護者の方々は想像してみてください。知らない教室で、もしかしたら、面接用に着慣れない服を着せられているかもしれません。周りは知らない人ばかり。そのような「慣れない」だらけの中、1人で立ち向かうことになるのです。少しの「慣れている」がどれだけ心強いか、想像に難くはないでしょう。塾の志望校演習で、志望校の入試問題の形式での演習を繰り返していた受験生が、「入試で問題に集中していたら、いつもの塾にいるのだと錯覚した。紙の向きや綴じ方まで同じだった」と嬉しそうに話してくれたことがあります。入試本番で平常心を保つために「慣れる」ことも、過去問に取り組む大きな意義と言えるのです。
 

(2) 過去問はただ解くだけでよいのか

過去問に取り組み始める9月、10月には、土曜日・日曜日や祝日に模擬試験や塾の志望校特訓が入るようになり、1学期と同じペースでは学習できなくなります。そのような状態では、過去問に取り組むまとまった時間がとれないことが多いと思います。塾では、前述したように「第1志望校は5年分、第2志望校は3年分、滑り止め校も1年分」の過去問に取り組むように勧められるので、熱心なご家庭ほど悩みが大きくなるようです。
以前、受験生を抱える保護者の方からこのような相談を受けました。「第1志望校の過去問を5年分解かせた。合格最低点には遠く及ばず、苦手な算数は軒並み20点代。志望校を変えさせた方が良いのではないか」というものです。この相談を受けたのは10月の中旬でした。この保護者のお子さんは、厳しいカリキュラムで有名な大手塾に通っていたため、10月中旬までに5年分の過去問に取り組む時間がよくあったものだと、まずはそこに驚いたものです。詳しくお話を伺うと、塾の授業や通常の家庭学習の後に2科目ずつ取り組んだため、2週間足らずで5年分を解き終えた、とのことでした。
このご家庭の過去問への取り組み方について、私がしたアドバイスは以下の2つでした。

1.頭がよく働く状態で過去問に取り組む

(1)で述べた通り、過去問演習をする意義は、合格点をとることにあるのではありません。しかし、お子様も保護者もその結果に一喜一憂するに違いないことは目に見えています。お子様が点数にがっかりして落ち込めば、この日以降の学習に支障をきたします。保護者がショックを受けて慌てたりお子様に過度のプレッシャーを与えたりすれば、お子様の精神状態に悪影響を及ぼします。ですから、なるべく良い点数をとれそうな環境で過去問に取り組むことが望ましいのです。塾で長時間学習して帰ってきた後や、家庭学習で身も心も疲れ切った状態で「ノルマ」としてこなした過去問で良い点数が取れるわけはありません。
過去問にだけ取り組む日を作るのは難しいと思いますので、せめて家庭学習に取り組む前に過去問を解いてください。また、連続して全ての受験科目に取り組むのが理想ですが、まとまった時間が取れないようでしたら、1日1科目ずつに取り組んでも構いません。塾で勧められたとおりにがむしゃらに過去問をこなした結果、思わしくない点数を連発して、志望校の変更まで思いつめるのでは本末転倒です。

2.1年分を解いて採点をしたら、合格点をとるための作戦を練る

1年分を解き終わったら、○×をつけて点数を出しただけで次の年度の問題に取り組むご家庭が多いようですが、これはもったいないとしか言いようがありません。忙しい時間をやりくりして取り組んだ過去問ですから、次の年度に取り組んだ時には少しでも良い点数を取れるように、最終目標である合格に近づくように、大いに活用したいところです。
まず、問題についての印象が鮮明なうちにお子様と話をする機会を設けてください。そのときに、これまで取り組んできた塾のテストや模擬試験と比べての感想を、科目ごとに細かく聞いてみてください。例えば「国語の物語文が7ページもあって時間が足りなかった」とか、「算数は全体的に難しくて大問4以降は全く手が出なかった」とか、そういった感想です。保護者の方は問題を全て解いてみる時間はないかもしれませんが、話を聞きながらお子様が話すポイントを問題で確認してください。このとき、「あなたの努力が足りないからだ」とか、「そんなこというなら志望校を変えるしかない」などと、お子様を否定するようなことを言わないようにすることがポイントです。
次に、受験生の感想を基に、問題を仕分けてください。取り組んだ年度の合格最低点がわかると、話を具体的に進めることができます。中学校が発表していない場合は、塾の先生などの専門家に相談してみると良いでしょう。正確な数値はわからなくても、大体何割くらい、という目安はご存じだと思います。
志望校の最低合格点が400点満点(100点満点×4科目)で240点だったとします。「算数が苦手で25点しか取れないのなら、あと4ヶ月の伸びを織り込んで30点は取れるようにしよう。その代わり、得意の社会は80点は必ず取ろう。社会が80点取れるなら、国語と理科は65点ずつでいいね。これで受かるよ」という具合に、具体的な数字を使って目標を立てます。子どもはただ「もっと頑張れ」と言われるより、目に見える数字を使って話をされたほうがやる気になるものです。
保護者の方々に心に留めて頂きたいのは、「満点を取れるようになる必要はない」ということです。100点満点のテストで30点、などと考えると、合格には程遠いように感じてしまいがちです。しかし、ほとんどの学校では、試験科目全ての合計点で合格者を決定しています。「科目ごとの足切りをします」としている学校でも、「1科目でも0点があれば不合格」程度の基準です。ご心配であれば、志望校に是非確認してみてください。ですから、得意な科目で更なる高得点を目指し、どうしても点数の伸びない科目は足を引っ張らない程度の点数をとる、というのが受験生にとっては最も負担の少ない作戦となるのです。
その上で、現時点で足りていない算数の5点はどこで取れそうか、文章が長くて時間の足りない国語にはどう対処するのか、といった個別の問題について対策を立てます。保護者の方の手に余るようなら、塾の先生などの専門家に相談するのも良いでしょう。
毎日、膨大な課題と向き合っている受験生は、日々のテストの点数に一喜一憂しながらも、どこまでやれば合格できるのか、というゴールが見えずにいることが多いものです。具体的に「これができれば受かるね」という目標が見えることで、学習への意欲も向上するでしょうし、精神的な負担も軽くなるでしょう。
一般に言われる「第1志望校は5年分、第2志望校は3年分、滑り止め校も1年分」は、受験に長年携わってきた方々の経験に基づくもので、きちんと取り組むことができるのが理想的です。ただ、現実にはなかなかそうはいかないものです。「知る」「慣れる」という観点に立てば、塾で志望校のそっくり問題などを数多くこなしている受験生であれば、家庭で複数年分の過去問に取り組む必要はないとも言えます。ですから、氾濫する情報に惑わされず、お子様と一番身近で接している保護者の方々が、それぞれの事情を考慮して「いつ取り組むか」「どのように取り組むか」「どのくらいの分量に取り組むか」を判断することが大切なのです。
 

2019年10月25日
GLE(Global Leader Education)
中学受験・高校受験
担当 加藤 恵


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