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中学受験「勉強しているのに成績が上がらない」~その勉強法、間違っています~ シリーズ一覧
新型コロナウイルスによる感染症の影響で、子どもたちは学校に行くことできない日々が続きました。現在では多くの学校が再開されたとはいえ、先行きは不透明なままです。中学受験を控えたお子さんをお持ちのご家庭では、年間カリキュラム通りに塾の授業は進むのか、夏休みの短縮や土曜日の登校などもある中で、夏期講習などにも通うことができるのか、と不安を抱えていらっしゃることと思います。
5月13日に文部科学省から発出された「中学校等の臨時休業の実施等を踏まえた令和3年度高等学校入学者選抜等における配慮事項について(通知)」を踏まえ、6月11日に、東京都の教育委員会が、「具体的な配慮事項の内容」を発表しました。都立高校の入学試験では「出題から除外する」という内容を、科目ごとに具体的に通知したのです。これは、公立高校入試では「中学校学習指導要領」の内容に基づいて入試問題が作成されるからです。言い換えれば、高校入試における出題は学校の教科書で習ったものに限る、ということです。ですから、例年は、狭くはないとはいえ同じ範囲から出題されていました。
では、中学入試ではどうなるのでしょう。2021年2月の入試では、感染を避けるための対応はなされることが予想されますが、入試が易化することはまずない、と考えられます。なぜなら、中学入試においては、「出題範囲」というものがそもそも存在しないからです。算数では「平方根」は出題されない、社会の歴史で出題されるのは日本史(日本史にからんだ世界史を含む)のみ、のようなに大まかな不文律はあります。しかし、難関校で出題される算数には一般には高校で学習する数Ⅱの内容も含まれますし、歴史の問題は大学入試センター試験と同レベルのものも当たり前のようにあります。これが中学入試なのです。
大規模な会場模試は中止になったり延期になったりしていますが、自宅受験が認められた模試もあります。あと半月程で夏休みを迎える、というこの時期には、所謂「合否判定」を伴った模試も実施されています。着実に力をつけたことがわかる結果を得たお子様もいる一方、楽しみを我慢して机に向かったはずなのに、思うような結果を得られなかったお子様もいるでしょう。
同じように一生懸命に勉強しているように見える子どもたちが、着実に成績を伸ばす子と、そうでない子に分かれてしまう。私は20年以上学習塾で子供たちを指導してきた経験から、この差は、勉強法の違いからきていると確信しています。お子様は正しい方法で勉強していますか。どんな勉強法が「間違い」で、どんな勉強法が「正しい」のでしょうか。私が指導していてよく見受ける間違った勉強法と、その改善の仕方について、「算数篇」「国語篇」「社会・理科篇」の3回に分けてお伝えします。第1回の今回は「算数篇」です。
(1)「ケアレスミス」に悩んでいる
指導している子どもの家庭学習をチェックする際、不正解だった問題があると私は必ず「どこを間違えたの」と尋ねます。自分のミスや分からなくなったポイントに自分で気づくことは、成績アップの第1歩だからです。すると、間違えたほとんどの問題について子どもは「ケアレスミスです」と答えます。確かに単純なたし算を間違えていたり、単位をつけ忘れていたり、ということもあります。しかし、同じくらいの確率であるのが、根本的にわかっていないから起こるミスです。
例えば、割合の問題です。「赤いリボンは80cm、青いリボンは20cmある。青いリボンの長さは赤いリボンの長さの何倍か」という問題がありました。80÷20=4で4倍、と答えを出してきた子どもがいたのです。実際は20÷80=0.25で0.25倍、というのが正解です。このとき、子どもは「80と20をうっかり逆に書いちゃった」言いました。これはうっかりではありません。問題文から「もとにする量」「比べる量」「割合」に相当する数をきちんと読み取る、ということ、「割合」を出すには「比べる量」÷「もとにする量」を計算しなければならない、ということが理解できていないのです。つまり、これは「ケアレスミスした」のではなく、「わかっていなかった」ということになります。
このような不正解について、「次から気をつけよう」と済ましてしまうことはできません。学習をし直さなければいけない事態なのです。子どもたちは、「わからなかった」ことを隠すために「ケアレスミス」を主張することがあります。しかし、本気で「ケアレスミス」だと思っていることも少なくありません。これは保護者の方にも言えます。「ケアレスミスが多くて」と言いながら出されるテストを拝見すると、ケアレスミスではなく、根本的にわかっていない、ということが多々あるのです。「ケアレスミス」を悩む前に、お子様の言う「ケアレスミス」が本当に「ケアレスミス」なのか、慎重に点検してください。「ケアレスミス」と「わからない」では、改善する方法が全く違いますから。
(2)図形の問題は見やすいように色分けしてノートに書く
図形の問題では、6年生になると必修レベルでも1つの問題、つまり1つの図形の中に3組、4組の相似形を見出す必要があるものが出てきます。そのような問題を解くとき、「見やすいように」とそれぞれの相似の組ごとに色分けしてマークする子どもがいます。そのような子どもに、私は「鉛筆(シャーペン)だけで書いてごらん」と指導します。なぜなら、入試本番では黒の鉛筆かシャーペン以外は使えないからです。色分けすれば確かに見やすくなるかもしれません。ですが、それは裏を返せば、色分けしないと相似形が見えない、ということになるのです。入試本番では、黒1色でも複数の相似形が自在に見える必要があるのです。
塾で指導する際、どこの塾でも板書の色は3色程度です。黒板なら基本は白、他に赤と黄色、ホワイトボードなら基本は黒、他に赤と青、といった具合です。つまり、ノートを取る際の色分けはその程度で十分、ということです。ところが、子どもたちは実に多くの色のペンを持っています。特に女子は大きな筆箱を2つも持っていたり、12色のペンをケースごと持って歩いていたりします。そのような子どもは様々な色を駆使して「見やすい」ノートを作っています。
「見やすい」ことは確かに大切なことです。線分図も雑では長さが比べにくく使い物になりませんし、図形はなるべく正確な方が答えを出しやすいものです。ただし、必要以上に多くの色を使うことにメリットはありません。筆箱が2つもあり、しかも中身がいっぱいに詰まっていれば、必要な色を取り出すのに時間がかかります。10色以上もある中から色を選ぶとなれば、その時間もかかりますし、ペンのキャップを開けたり閉めたり、という時間も馬鹿にはできません。そうなると、板書をどんな色で写そうか、ということにばかり気を取られ、肝心の解説を聞き逃すことにもつながります。これでは本末転倒です。
私には全て赤にしか見えない色だけで5本以上持っている子どもに、黒を含めて3色でノートをとるように言うと、彼女はこう言いました。「お母さんが、見やすいように色分けして書きなさい、って。きれいに書け、ってうるさいんです」小学生の子どもにとって、保護者の方のアドバイスはとても大きなものです。ですから、保護者の方は、何のために塾に通っているのか、ノートをとっているのか、色分けしているのか、その本質を見極めたアドバイスをする必要があるのです。
(3)問題に取り組んでいる子どもに「そこ違うよ」と声をかける
家庭学習をチェックするとほとんどの問題が正解になっているのに、テストをするとさほど点が取れない子どもがよくいます。自分では解かずに答えを写してくる、というようなことをする子どもではありません。詳しく話を聞くと、「リビングで勉強していると、お母さんが問題とノートを見て、『そこ違うよ』と教えてくれて途中で直すから、答え合わせではほとんどが○になる」とのことでした。このようなケースはとても多くあります。「ミスに気付いてしまったから注意せずにいられない」という気持ちはわかります。しかし、実はこれがお子様の成績の伸びを抑えることにつながってしまっているのです。
私は、家庭学習時に「赤印」と「青印」をつけるように、子どもたちに指導しています。「自分で解けた」「1回で正解だった」問題は「無印」です。不正解だったけれど、「解説を読んで理解した」「保護者の方の注意やアドバイスで解けた」のものは「青印」です。計算や単位のミスもこれに含みます。「不正解で解説を読んだが、それでもわからなかった」ものには「赤印」をつけます。これは、「無印」以外は正解としないためのシステムです。
計算や単位のミスも含め、1回目に自力で解けなかった問題は、次に解いたときにもまた解けない可能性があります。保護者の方は「違うよ」と言っただけで解き方を教えたわけではないから、「無印」としても良いのではないか、と思われるかもしれません。しかし、入試は1発勝負です。小さなミスだとしても、「違うよ」と教えてくれる人はいません。自分の答えが正しいのかどうかわからない状態のまま、制限時間まで次々と問題を解き続けなくてはなりません。ですから、間違っていることには自分で気づくしかないのです。そして、その結果が合否として表れます。入試では「青印」はあくまでも不正解なのです。
不正解となった問題が多いと、子どものやる気が下がることもあります。「このくらいなら」と軽い気持ちで「違うよ」と声をかけることもあると思います。しかし、そこはぐっと我慢してください。声をかけたりアドバイスしたりするのは、「青印」「赤印」がついた後にしてください。小さなミスに真摯に向き合うことが成績アップへの近道なのです。
(4)家庭学習ではわかった問題を、テストだと間違える
「解き方はわかっていたのにテストで間違えました」という声は、子どもからも保護者の方からのよく聞きます。「本番に弱いんです」とおっしゃる方もいます。確かに家庭学習とは環境が違いますから、100%の実力は出せないかもしれません。ただし、緊張していることと、わかっていたのに間違えたこととは全く別の問題です。
「青印」「赤印」のつけ方については前述しました。模試などのテストの前に復習するとしたら、どの問題から手を付けますか。「無印」の問題は誰からのアドバイスも受けずに1回で正解したのですから、もう手を付ける必要はないでしょう。では、「青印」が先か、「赤印」が先か。これは迷うまでもなく「青印」です。
「わかる」と「できる」は全く別物だということをご存じでしょうか。私は「わからない」と「わかる」の差はそれほどないけれど、「わかる」と「できる」との間には高い壁がある、と思っています。どの科目でもそうですが、「わかる」ことはそう難しいことではありません。例えば、算数の文章題で、「これは速さの問題に見えるけれど、実はつるかめ算の考え方を使うんだよ」と言われれば、「そうか、つるかめ算だと考えれば解ける」となります。難関校向けの問題だとしても、塾の講師は、子どもに「わかる」ように説明します。子どもも「ああ、わかった」と感じます。「わかる」を提供することが講師の仕事ですから、当然です。
さて、そこからが肝心です。「わかったのだからできる」という具合にはならないのです。「わかる」は他人からの情報を受け身で理解する、という作業です。それに対して「できる」は能動的に独力で解く、という作業です。作業の内容も質も全く違うのですから、「わかる」がそのまま「できる」になることはありません。では、「わかる」を「できる」に変えるためにはどうしたら良いのでしょう。答えはシンプルです。復習を繰り返すことです。1人で解いてみる作業を繰り返すことです。ただし、連続して同じ問題を何度も解くことは意味がありません。ある程度時間を空けてまた解いてみる、ということを繰り返します。「わかっているのだから何度も繰り返さなくてもできるようになるだろう」と思われるかもしれません。しかし、これがなかなか難しいのです。このことは、「わかっていたのにテストで間違える」ことが証明しています。「できる」に到達していないのに復習をやめてしまうから、テストで間違えるのです。ただし、正しく復習することで、「わかる」は「できる」に変えることができます。
これに対し、「赤印」は解説を得ても「わからなかった」問題ですから、まず「わからない」を「わかる」にするという壁を突破しなくてはなりません。そのような問題は一時的に「わかる」になったとしても「できる」にまでするのは困難に決まっています。ですから、忙しい受験生がテスト前になるべく短時間で得点となる「できる」を増やすためには、「青印」を復習することを優先すべきなのです。「青印」を「できる」に変える努力は、当然、入試に向けての実力を養うことにもなっています。
「わかる」で満足しているようでは、成績は上がりません。苦手科目を克服している子どもは、「わかる」と「できる」とは違うことに気付いています。そして、例外なく「わかる」を「できる」にするための努力をしているのです。
今回は、中学受験を控えたお子様をお持ちの保護者の方がお子様にできる働きかけを中心に、「算数篇」をご紹介しました。お子様の勉強方法については、また別の機会にお伝えする予定です。次回は「国語篇」をご紹介します。
2020年7月6日
GLE(Global Leader Education)中学受験・高校受験
担当 加藤 恵