◊◊私立小学校の英語教育◊◊
公立小学校の英語教育
公立小学校でも教育特区では様々な試みがなされています。 品川区では小中一貫教育が現在6校あり、小1から英語教育を導入しています。(例。日野小学校)先進的試みですが、ネイティブの音声の指導を低学年のときどの様にしているのかは不明です。 実体は、「年間限られた時間のネイティブスピーカーの指導」であるようです。英語教育は早ければ良いというものでもありません。早い時期にネイティブスピーカーの音声に触れなくては意味がありません。日本人の発音による音声指導はむしろ小さい子に有害です。やるならば、予算をつけてネイティブスピーカーを雇用して、低学年から理想的な音声指導をすべきと思います。私立小学校では様々な工夫がなされています。理想的な英語教育を探るためには私立小学校の実践を調べるのが一番です。
私立小学校の英語教育
公立校の教育は一律であるのに対して、私立はそれぞれの特色があり、工夫があるので、その中に、あるべきグローバルリーダーを育成する指導、特に英語力指導が見えるはずです。 私は今年東京、神奈川、埼玉と京都、大阪、神戸の主要有名私立小学校40校の英語教育の取り組みについての横並びの調査をしました。私立小学校の実情を整理したいと思います。 教育の多様性という観点から私立校の存在意義は大きいと思われます。小学校における英語教育も多くの私立が早期に取り入れていますが、実態は千差万別といえます。京都、大阪、神戸は新規校が多いせいか、英語教育に熱心で東京、神奈川、埼玉と比べると小学校英語教育は西高東低となっており、ネイティブスピーカーを交えた小学校低学年からの英語教育が行われています。また、全体でみると女高男低といえます。ミッション系が英語教育に熱心で、多くが女子校だからです。 折角多くの私立小学校で英語を取り入れているのに、英語は音声言語であるということを理解せず、また、早い時期に音声に対する敏感期が過ぎてしまうことを理解せず、低学年を日本人教師が教え、高学年を外国人教師が教えている学校や、最高の教育をしているにも関わらず、ようやく重い腰を上げて、高学年から週1時間、ネイティブは学期に一度という学校もある状況です。学校によっては日本人教師がクラスで英語を多くしゃべり、ネイティブスピーカーは「押すと英語が出てくる置物」であったり、ネイティブスピーカーに酷いニュージ―ランド辺りの訛りがあったりします。また、留学制度があっても、海外の姉妹校であり、そこでは日本語で授業が行われていたりします。また、国際理解という名目のもとにお茶を濁している場合も多いのです。私立に於いてさえ英語教育についての理解と実践は今一のところが多いようです。 その中で、参考になる数校について述べます。 早稲田実業学校初等部は早稲田大学のグルーバルリーダー育成「Waseda Vision 150」の一環として、小学校でも来年以降全学年で英語授業を行う計画です。現在では5・6年生がネイティブスピーカーを交えて英語指導を行っています。注目すべきは、中学3年から高校2年までの2年間の間、英国のpublic school への長期留学(希望者)のプログラムを検討していることです。小学校低学年の音声トレーニングとこの時期のpublic schoolでの留学経験は、 グローバルリーダーとしての必要条件であるコミュニケーション能力の土台を与え、かつ、留学経験は困難を乗り越えていけるダイナミックな力を与えてくれると思います。実は私立教育の弱点は、恵まれた環境で育つため(上層)中流家庭の、温室育ちの軟弱な人材を作ることです(公立校で身に付くわけでもありませんが)。 特筆すべきは暁星小学校の英語教育です。生徒の殺傷事件で世間の見方も厳しくなりましたが、私の見る限り、暁星で教育を受けた若者は逞しく、清々しい印象を受けます。その多くがサッカーや野球や、或いは聖歌隊などの集団活動に参加していて、友人との仲も良好なのです。 暁星小学校は十数年前にフランス語から英語に切り替えました。このときフランス語に割り当られていた週2時間を全て英語指導に切り替えました。大英断です。白百合などは未だに切り替えられず、低学年からフランス語を学び英語導入は高学年になってからです。(実は白百合は各家庭では塾に行って英語を習わせているそうです。今はEUでも公用語は英語です。改革が遅れているとの印象を免れません。しかし保護者が表立ってクレームをいうことはないようでが、多くは塾に通って英語を勉強しているようです。)
暁星小学校の英語教育の特色
- 英語を音声言語と捉え、小学校低学年(1年から3年)はネイティブスピーカーと日本人スタッフ(この先生も完全なバイリンガルです)が音声面を重視して、話すことを重視してTTで教えます。例えば1年生に、rとlと「ラ」の3種の音の違いを教えます。1年生には音声の力を与えます。音声の中には文法も単語も含まれているので大量に聞かせる。よくある「歌って、踊って」の様な指導はしない。さらに、3年生になると発音記号を教え、視覚的にも音を正確に分析できる力を与えて、音声力をサポートさせます。
- 低学年での音声面の重視は大切な方針と思われます。一部の学校は何故か敢えて低学年を日本人の教師に教えさせています(日本女子大学付属豊明小、立教小等)。音声面の敏感期(0歳~2歳)を逃したとしても、一刻も早くネイティブスピーカーによる音声面のトレーニングが必要思われます。東京女学館や目黒星美でも低学年の音声指導に重点を置き、成果を上げています。
- 学年ごとの課題と単語(見出し語のみ) 1年生:数 (冠詞、複数形) (単語 354) 2年生:時制 (現在、過去、未来) (単語 301) 3年生:人称(三人称単数 等) (単語 248) 4年生:WH質問文 5年生:時制、人称の異なる表現 6年生:高度な表現 学ぶ英単語の数だけ取っても、大変なボリュームです。 上記の如き各課題の学年配分は、子どもの英語力発達のプロセスから考えると極めて妥当であると思われます。
- 指導は教え込むというより、男子生徒の競争心を活用して、教えの場を生き生きとさせている。例えば、ネイティティブ教師が言った色のクーピーを取るゲーム。「Please show me your yellow colored plastic pencil.」皆が競って該当のクーピーを上に掲げます。「Who is the champion?」一番早く正しくクーピーを選んだ生徒がchampionです。耳を凝らし、競って手をあげます。 数のゲームでは「Touch your shoulder.」「Touch your shoulders.」の質問に生徒は動作で答える。教室は活気に満ちています。
- 高学年(4年生から6年生)になると敢えて日本人が英語を教えます。このときまでには子どもは必要な音声能力の基本を身に着けているからです。高度な内容の英語力を定着させます。
- 大量のリスニング、リーディングを与え、大意を把握できるようにさせる。つまり、個々の英文を文法的に、精緻に解釈させるのではなく、大量の英文のストリーム(流れ)の中で、単語や句を抜き出し、組み立て、推測する力を着ける。本来の言語能力の取得はそのようにしてなされるものなのです。(精緻な文法分析は中学の段階に任せるが、毎回一つの文法事項を導入します。大量の英語に接することで、意識しなくても自然に文法や単語に触れるようにする)。確かに米国の大学入試SATなども、大量の文章を読ませて大意を把握させる形式ですし、留学するにしてもそのような能力が求められています。一時一句精緻に読んでいては授業で間に合わないのです。
- この様にして小学校の内に相当高度な内容の英語を教えています。6年生に英検の過去問をやらせると4級は6~7割、3級では4割程の正解。
- HPによる家庭学習のサポート体制の整備があります。HPの画面のイラストを押すとその日に習った項目の音声が流れます。暁星の保護者の様に熱心な場合、親が自ら「日本人英語」で教えて、子どもの耳を台無しにしてしまうことも回避できます。
- カトリック小学校としての英語教育の側面を持つ。英語での祈りは1年から行い、1学期中には皆言える様になります。また、カトリック専用の教科書もあります。他のカトリック系の学校と連携して、英語(リーディング)を通して「キリスト教の価値観」を生徒に伝える試みを模索中。キリスト教的価値観の理解もグローバル化の中で、同じ価値観に支えられている世界の人と連携する上で肝要です。
- 一人の(完璧な)バイリンガル教師と一人のネイティブスピーカーだけで、小学校の高いレベルの英語指導を行っていることに敬意を表します。
私立の教育には「伝統」という価値があります。しかし、激動する現代では、時代を先取りする教育を提供することが大切です。20年後、30年後に子どもが迎える時代に逞しく活躍できる翼を授けることが教育の責任です。学校選びもこの観点から行うべきと思います。これからの世界はより情報化、グローバリゼーションが進み、英語が共用語となります。英語が自由に操れないとやがて苦労することになります。音声面の敏感期が2歳であることを鑑みるならば乳幼児期に英語プログラムを入れれば、バイリンガル教育の道も開けるでしょう。暁星を初め、ミッション系で幼稚園を併設しているところならば実践できるはずです。 次回は「国際バカロレア」について述べたいと思います。
ご参考に: 早稲田実業学校初等部 http://www.wasedajg.ed.jp/introduction/e.html 暁星小学校 http://www.gyosei-e.ed.jp/