♢♢英語力の国際間比較♢♢
残念ながら日本人の英語力は国際間比較において低下しています。世界各国では、グローバル化に備えて様々な対策を講じてきましたが、日本では英語教育においても改革が遅々として進まず、韓国や中国にも大きく水をあけられているのです。 日本では2020年から小学3年生から週1回、5,6年生は週2回の英語教育が実施されますが、韓国、中国に遅れること20年です。この意味は大きいのです。韓国、中国で英語教育を受けた人が成人し、今後グローバルな世界で活躍するのに反し、日本では2020年にようやくスタートラインに並ぶので、今後長期に渡ってグローバルな局面では苦戦を強いられます。
日本人の英語力
- 「TOEFL」(国際的な英語能力試験)→日本語を母語とする受験者のスコア 世界115言語中105位 備考:日本人はTOEFLのスコアが低いとはいえ、努力してある程度伸ばすこともできます。しかし、それは、瞬間風速みたいなもので、実際の英語力とは別のものです。日本人は実践力に弱いのです。同じスコアでも、他国の人と比べてコミュニケーション能力が劣るのです。これは、私の留学経験から得た実感です。
- 「EF EPI」(英語能力指数)→世界70の国と地域に住む91万人の調査、65ヶ国中30位 日本はベトナムより低い順位です。
- 「世界競争力ランキング」(スイスのIMD)→日本は61ヶ国・地域中27位、その中でも英語力は60位 (以上は『バイリンガルは5歳までに作られる』三幣 真理著 参照、文部科学省が調査した各種データも同様の指標を示しています。)
EUでは英語が公用語になっていますし、インド、シンガポール、マレーシア、フィリッピンなどは英語が共通語となっており、ビジネスシーンでは益々英語が使われています。タイでも台湾でも英語教育は盛んです。
韓国の英語教育
韓国語は日本語と類似した文法体系を持ち、韓国人は日本人と同様に英語が苦手な国民でした。しかし、1997年に英語教育の抜本的改革を行いました。 小学校3年生から英語を必修とし、3年生から週2回、5年生から週3回の英語授業があり、ネイティブスピーカーと韓国人教師のティームティーチングです。小学1,2年生は放課後クラスを申し込めば学べます。2001年から2010年の間に、TOEICの平均点を70点上げました。(韓国の高卒の平均点700点、日本の大卒の平均点 450点) 最近韓国の若い人に接して感じることは、英語のできる人が多いことです。その上で日本語も勉強しています。 グローバル化に備えて、韓国は仁川空港を世界のハブ空港として開港(2001年)し、釜山港と仁川港をハブ港湾・コンテナ港湾(2000年前後)として再整備しました。この面でも日本は遅れを取ってしまいました。ちなみに日本では羽田を国際ハブ空港にする案も、役人が「技術的に不可能」と受け付けなかったそうです。(慶応の恩師 加藤 寛 元教授、元日本政策学会会長 談)。羽田に国際線乗り入れ可能になったのは最近のことです。
中国の英語教育
中国は華僑の伝統もあり元々グローバルな面を持っていました。シンガポールも8割近くの国民が中国系です。例えば、浙江省の温州市では民間によるグローバリゼーションが立ち上がり、同市が世界の工場と変貌しています。温州は雑貨・日用品の一大生産地となっています。温州市の800万人のうち220万人が離郷し、そのうち40万人が海外です。海外に行った人が最新の市場情報を温州に持ち込み、それを温州で製品化して、中国内外で売る。その儲けをまた温州に再投資するというネットワークと循環をなしとげたのです。(メール配信「ウォートンに聞け」第5回 「温州人はアジアのユダヤ人!?」) 十数年前ですが、私が山東省の内陸部のある市の工場を訪れたとき、完全にバイリンガルの青年が重要なポストについていました。彼は、親戚がアメリカに居て、それを頼って中学からアメリカで過ごしたそうです。その工場ではアメリカなどからの注文を受け、布製品を製造していました。この様な人が中国では大勢存在して、中国のグローバリゼーションを支えているのです。 中国は2001年の段階で小3からの英語教育が必修化され、北京、上海、天津等の大都市では、ほぼ小1から英語教育が実施されています。全学年週2単位(1単位 40分間)また、大学では英語による授業も多いという。やはり、最近の若い中国人の人は英語を駆使できる人が多いのです。 グローバリゼーションがと情報革命が進んだ今、英語力は重要なインフラなのです。国民の英語力向上の教育支出は効率的な投資でもあります。しかし日本の政府は、必要の無い道路等を作ること等に腐心し、肝心な教育投資を怠ったのです。
日本の英語教育
2002年に施行された学習指導要領に基づき「国際理解に関する学習の一環」として各小学校の3年生から年間10時間程度の英語活動が始まりました。2003年には「構造改革特別区域法」により教育特区にて様々な取り組みができる様になりました。2008年に学習指導要領の改訂を行い、小学校5,6年生からそれぞれ週1単位(45分)の「外国語活動」が2011年から施行されることになりました。(教育特区はこれに収斂されることになりました)。 この間、文部科学省は2003年の「英語が使える日本人の育成のための行動計画」や2011年の「英語力向上のための5つの提言」を取りまとめ公表したが、提言は行動計画の焼き直しに過ぎず、時代の変化に比べ、教育行政が進捗していない印象が見受けられました。また、10年に一度の教育改革では、急激な時代の変化に伴う対応が遅れてしまうと思われます。 平成28年8月1日、中央教育審議会は「次期学習指導要領に向けたこれまでの審議のまとめのポイント」を発表しました。それによると2020年から英語教育は「小学校3年生からの必修化」(週1単位 年間35単位時間程度)、「小学校5年生からの教科化」(週2単位 年間 70単位程度)と示されています。(1単位とは45分と思われます。必修とは教科書がなく原則自由で、教科とは検定教科書を使用し、成績もつくことが決まりました)。 韓国・中国に遅れること実に20年です。 英語教育に関し、韓国・中国ともスタート時期、質、量ともに日本をはるかに凌駕しています。日本では、産業界の強い要請にも関わらず、文部科学省がとんと動かなった。文部科学省が動かなかったというより政治家が動かなかった。グローバリゼーション等の潮流は、政治家がキャッチし、役人を動かすものです。韓国では金大中大統領が「これからは英語が大切である」と国民に大演説したそうです。日本には政界にも産業界にも世界の動きをキャッチして戦略を練るグローバルリーダーが存在しなかった。韓国では英語に留まらず、「IT産業奨励」を断行し、IT先進国ともなったのです。国家戦略が存在したのです。 以上